孤独のスパイス
サタンの不定期小説シリーズ
「孤独のスパイス」
※前作「細菌男」はこちらです
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俺は孤独。
孤独なヒーロー。
孤独のスパイス、カレーパンマン。
「三人寄れば文殊(もんじゅ)の知恵」と言うことわざが示すように、日本では古来、戦いにおいて3と言う数字が特別な意味を持つ。
安芸の戦国武将、毛利元就はそれを「三本の矢」に例え、三人の息子に強固な絆を結ばせた。
後に毛利家は、中国地方最大勢力へと成長し、あの豊臣秀吉をも脅かす存在になる。
だが俺は思う。
残念ながら、3人集まれば何でもいいと言うものではないと。
必要なのは3人の協調性と、そして何より、3人をまとめられる強いカリスマを持つリーダーの存在だ。
残念ながら、俺たち3人にはそれが決定的に欠けている。
そもそも俺達のリーダーがアンパンであることについて、少なくとも俺は、はっきりノーだ。
子供にだけウケそうな丸い顔に、嫌になるほど甘いあんこが詰まっただけの、くだらないあいつの何処に、リーダーの資質が備わっているって言うんだ?
今時、アンパンなんざ、パン屋でも大して売れないマイナー商品だ。
砂糖で甘くしただけの無駄にカロリーが高いアンパンをもらって、誰が喜んで食べるもんか。昭和の時代じゃないんだから。
コンビニだって、肉まんやカレーまんが1個130円で売っているのに、アンマンだけが未だに1個100円で、それでも蒸し器の隅っこで売れ残るだけの価値しかない迷惑商品だろ。
この前戦いの最中に、俺のカレーが奴の顔に少しかかった時、奴はどうしたと思う?
「顔が汚れて力が出ない」
とぬかして、そのまま頭を交換しやがった。
奴からしたら、香ばしい香りを放つ俺のカレーが、まるで汚物扱いさ。
俺は孤独。
孤独な汚物。
孤独のスパイス、カレーパンマン。
アンパン野郎にも困ったもんだが、食パンのヤツなんかもう論外だぜ?
あいつは、何故かモテる男って感じに振る舞っちゃいるが、はっきり言って俺ら3人の中では一番浮いてるからな。
そもそも、空腹で死にそうになっている時に、助けに来てくれても一番嬉しくないのが食パンマンだろ。
焼いてバターを塗るならまだしも、何も付けてない生の食パンなんか、よほど腹が減ってなけりゃ普通食わないからな。
むしろ、空腹で喉も乾いているようなタイミングで「さあ、僕の顔を食べて」と言われて生の食パンを出されたら、下手したら喉に仕えて窒息するんじゃないかと不安になるだろ。
笑顔で食パンを勧められても断りにくいし、せめて食べる人の気持ちを考えるなら、普段からバターか何か持ち歩けよ、って俺は思うよ。
何もない時は、仕方がない。
今度は、俺のカレーを少し分けてやろう。味気ないお前にでも、俺のカレーは調味料代わりになるだろう。
俺は孤独。
孤独な調味料。
孤独のスパイス、カレーパンマン。
甘いだけのアンパンに、味気のない食パン。
お前ら、ヒーロー失格だよ。
人は、ただ空腹を満たす為だけで食事をしている訳じゃない。
甘いだけの人生、味気ない人生なんて無意味で無価値だ。
そう、人生には、俺様のようなスパイスが必要なのさ。
ターメリック、コリアンダー、クミンシードにガラムマサラ。
スパイスの組み合わせは自由で、それこそ無限だ。
あいつらにカレーの奥ゆかしさはわからないし、理解してもらおうとも思わない。
そう、3人の中で俺だけが唯一、違いのわかる孤独な存在だ。
ジャム、バタ子や、チーズにもわからないさ。あいつらは何だって美味い美味いと言って食べるだけの奴等だ。
この前は、チョコレートを美味そうに食っていたが、犬にはカカオ成分は猛毒だ。
板チョコ一枚も食えば致死量だったはずだし、笑顔で食ってる場合じゃ無くて、直ぐに動物病院へ行くべきなんだが、何も知らずに笑顔で猛毒を食べ続けて、そのままエンディングを迎えやがった。本当に非常識な連中だ。
俺は孤独。
孤独な常識人。
孤独のスパイス、カレーパンマン。
おっ、そんなことを言っていたら、バイキン野郎がノコノコと出てきたじゃないか。
よーし、だったら俺だけのオリジナル必殺技、カレーフラッシュをお見舞いしてやろうじゃないか。
あれ? 何だ、何をする?
うワーッ!! 水ッ!!
やめろーッ!!
ギャーッ!!
「顔が汚れて力が出ない」
終わり。
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今回は正体を隠すのはあきらめて、ストレートにカレーパンマンの気持ちをぶつけてみました。
やなせたかしさんごめんなさい。
本当は三人仲がいいのはわかってます。
でも、カレーパンマンもたまには言いたい事があるとサタンは思うんです。
うーん、でも正直、「細菌男」程の勢いは出せなかった。2作目なんでこんなものかな?
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